流山で新政府軍に連行された近藤さん。
土方さんは、近藤さんを救おうと必死だったけど…
嘆願書を相馬さんに託し、その後の経緯は知らない。



何故なら、私達はそのまま鴻ノ台へと、

戦場へと赴いたから


















「土方さん、入ります。」

「ああ…………」

襖を叩いて中からの了解を得ると、私は部屋の中へと入った。



「傷の具合はどうですか?」
「あまり思わしくはないな…。」

先日の戦闘で、土方さんは左足に銃弾を受け、深い傷を負ってしまった。
もちろん、歩くこともままならず、指揮を取ることすら難しくなった土方さんは、
こうして戦線を離れ、療養を余儀なくされている。
今ここで無理をすれば、命に関わりかねない。
そう言われて、土方さんはしぶしぶ戦線を離れることを承諾したのだ。



「何だか落ち着かんな。」
「何がですか?」
「今こうしている間にも、あいつらは戦場で戦ってるというのに……」
「そう思うのなら、この傷を一刻も早く治すことです。」



私の言葉に驚きの表情を受かべた土方さんだったけど、笑みを浮かべてこう言った。


「そうだな……早くあいつらの処に戻ってやらんとな。」

「じゃあ包帯替えますね。」

「ああ、すまん。」


包帯を外し、露になった傷を見て改めて思う。
銃弾が当たったのが、足でよかった…と。
もし他の部分を貫いていたら、と思うだけでぞっとする。

本当は、こうして笑顔で話をするのも辛いくらい、痛みは酷いはずだ。
でも土方さんは、決してそういう素振りは見せない。



「できました。」
「ありがとう。」
「少しお休みになりますか?」
「いや、大丈夫だ。」



今日は幾分か顔色もいいみたいだ。
そう安心していたところに、一人の隊士が飛び込んできた。

「土方先生!大変です!」

血相を変えて駆け込んで来た隊士に、土方さんも私も唯事ではないと感じる。

「一体何事だ?」
「近藤先生が…………」
「近藤さんがどうした?」




「板橋で斬首されたそうです。」




私達は背筋が凍りついた。
「何だ…って?………相馬は、相馬は間に合わなかったのか?」
「相馬が辿り着く前に、近藤先生の身元が露見してしまい、
相馬はそのまま幽閉されたそうです。」
「くそっ!」
土方さんは、激しい怒りを露にした。
枕を掴むと、それを壁へと投げつける。


近藤さんの逝去を伝えに来た隊士は、一礼すると部屋を後にした。

もしかして、私も今は部屋にいないほうがいいかもしれない。
そう思って、そっと立ち上がった時だった。




……すまんが…今はここに……いてくれないか?」




その声は震えていて、今にも消えてしまいそうだった。


「俺があの時、出頭してくれなんて言ったから……
俺が…俺が近藤さんを殺したんだ…」
土方さんの目から、涙が溢れ出す。
「斬首に処される位なら、あの場で切腹させてやれば良かったんだ…。」
「土方さん…」
「俺があの人から、武士としての死場を奪っちまった!」


私には、かける言葉が見つからなかった。
ただ、泣いている土方さんを放っておけなくて…
両手を伸ばして、そっと土方さんを抱きしめた。









土方さん、そんなに自分を責めないで下さい。」
「俺は、あの人を大将にしてやりたかった。それだけなのに……っ」



この人は、この先もどれだけ多くの人の死を乗り越えなければならないんだろう。
そうして、その度にこの人は、こうやって涙を流すのだろう。
せめて私は、土方さんの側にずっといよう。
例え残る隊士が私一人になったとしても、決して土方さんを残して死んだりしない。



泣き続ける土方さんを抱きしめながら、心にそう誓った。









あとがき

サイトに新選組のコンテンツを立ち上げてすぐ位の時期に浮かんでいた話です。
お題を始める前は、イラストだけでUPしようかな…とも考えていましたが…。
やっぱり副長を描くのに、近藤さんと山南さんの死を悲しむ部分は
外すわけにはいかないなぁ〜と思いまして。
ただ、山南さんの死を悲しむお題は、土方さんの俳句のとある言葉と山南さんを
掛けて書きたかったのと、その句にまつわる会話を入れたかったので、
ヒロインを現代設定に変えて、別サイトにUPしてあります。
これをきっかけに、土方さんが鬼の副長から本来の
気性に戻っていく所が、これまた大好きなのです。
これからも、箱館新選組ネタが増えそうな…そんな感じです(爆)。



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